無作為に1頭選んで複勝を買い続けると、回収率は74.44%に収束する。27年ぶん、95,740レース、1,335,661頭を1頭ずつ数えた結果である。
理屈のうえでは80%のはずだった。5.6ポイント足りない。その5.6ポイントがどこへ消えたのかを書く。
何をしたか
1人が95,740レースすべてで、1レースにつき1頭を等確率で選ぶ。選んだ馬の複勝を100円買う。投じる額は1人あたり9,574,000円。これを10,000人ぶん繰り返した。
母数は1999年1月5日から2026年9月21日までの中央競馬、95,740レース・1,335,661頭。実際に出走した馬だけを数え、取消と除外は外してある。使ったのは着順・払戻・オッズといった公開情報だけである。乱数の種は固定してあるので、同じ数字が何度でも再現される。
80%に届かない理由
複勝の控除率は20%。だから払い戻しは80%。ここまでは正しい。
だが80%というのは「賭けられた金に対して」の数字である。人は強そうな馬に金を置く。払い戻しもそちらへ厚くなる。ところが賽は、誰も買わない馬を同じ確率で選ぶ。
| 単勝オッズ | 出走の割合(%) | 複勝回収率(%) |
|---|---|---|
| ~2倍 | 2.1 | 88.2 |
| 2~3倍 | 3.7 | 84.6 |
| 3~5倍 | 8.2 | 82.2 |
| 5~10倍 | 14.7 | 79.9 |
| 10~20倍 | 16.1 | 81.1 |
| 20~50倍 | 20.5 | 79.6 |
| 50~100倍 | 13.8 | 75.1 |
| 100倍~ | 21.0 | 52.8 |
出走馬の21.0%が単勝100倍超にいる。5頭に1頭。そこの複勝回収率は52.8%しかない。賽を振れば、5回に1回はここを引く。
人気順に並べても同じ形になる。
| 人気 | 複勝回収率(%) |
|---|---|
| 1番人気 | 84.0 |
| 2番人気 | 82.8 |
| 3番人気 | 81.0 |
| 5番人気 | 78.4 |
| 10番人気 | 73.5 |
| 14番人気 | 59.5 |
| 18番人気 | 37.4 |
一番マシなのが1番人気で、それでも84.0%。どこにも100%は無い。「人気薄は買われすぎている」というのは、この表のことである。
10,000人に振らせた
1人が95,740レースを買い切る。それを10,000人ぶん。結果は教科書どおりの正規分布になった。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 平均 | 74.444% |
| 中央値 | 74.432% |
| 標準偏差 | 0.799ポイント |
| 最高(最も運のいい人) | 77.460% |
| 最低(最も運の悪い人) | 71.370% |
| 回収率100%以上 | 0人 |
プラスマイナス1シグマに68.3%、2シグマに95.4%、3シグマに99.7%。実測と理論が小数第1位までそろった。
最も運のいい人が77.460%。それでも2,158,010円の負けである。10,000人のうち100%を超えた者はいない。
当然である。100%は、この山のプラス32シグマのところにある。確率にして10の224乗分の1。1兆回やっても出ない。
ところが、レース数を減らすと話が変わる
ここからが面白いところだ。
| 買ったレース数 | 100%以上(%) | 中央値(%) | 最高(%) |
|---|---|---|---|
| 1レース | 22.3 | - | - |
| 7レース | 23.5 | - | - |
| 10レース | 23.4 | 52.0 | 1865.0 |
| 100レース | 14.2 | 70.2 | 298.6 |
| 1,000レース | 0.25 | 74.0 | 109.9 |
| 3,450レース(1年) | 0.00 | 74.3 | 95.2 |
| 95,740レース | 0.00 | 74.4 | 77.5 |
7レースなら4人に1人が勝つ。そしてそこが天井である。
1レースだけなら22.3%。少し下がる。1レースは当たるか外れるかしかなく、複勝の最低払戻は110円だから、当たれば必ず元は取れる。つまり的中率がそのまま100%超えの確率になる。それが22.3%。
何レース買おうが、4人に1人より上には行かない。
何人でやるかで、買えるレース数の上限が決まる
見方を変える。「この人数でやって、1人でも100%を超える者が出るレース数の上限」を出すとこうなる。
| 人数 | レース数 |
|---|---|
| 10人 | 166 |
| 1万人 | 1,871 |
| 日本の人口(1億2千万人) | 4,385 |
| 世界の人口(80億人) | 5,527 |
1年は3,450レース。世界中の人間が全員やっても、1年半で誰もいなくなる。1,000レース増えるごとに、見込みは36分の1になる。
平均を上げているのは、40万人のうちの1人
「7レースなら4人に1人」は、わりといい話に聞こえる。だが、もう一つ見せたいものがある。
10レースだけ買う人を40万人ぶん作った。平均は74.4%。さっきと同じだ。ところが真ん中の人は52%である。
少ない回数だと山が左に寄る。半分以上の人が平均より下にいる。では平均を上げているのは誰か。40万人のうち、いちばん運のいい1人が19倍にしている。10レースで1万円が19万円。
そして世の中に出てくるのは、その1人の話だけである。残りの399,999人は黙っている。
単勝ならどうか
同じ27年ぶんで、賽で1頭選んで単勝を買う場合も計算した。平均は72.85%。複勝より1.6ポイント低い。
低いのは平均だけである。中身が違う。
| 項目 | 単勝 | 複勝 |
|---|---|---|
| 平均回収率(%) | 72.85 | 74.44 |
| 的中率(%) | 7.5 | 22.3 |
| 平均払戻(円) | 969 | 333 |
| 最高払戻(円) | 56,940 | 18,020 |
単勝は13回に1回しか当たらない。複勝は4回に1回。だが当たったときの払い戻しが3倍近く違い、ばらつきは3.3倍大きい。
その差が、100%を超える確率の逆転を生む。
| 買ったレース数 | 単勝(%) | 複勝(%) |
|---|---|---|
| 1レース | 7.5 | 22.3 |
| 10レース | 19.6 | 23.3 |
| 30レース | 21.6 | 21.2 |
| 1,000レース | 7.6 | 0.29 |
30レースで逆転する。そこから先はずっと単勝が上だ。1,000レースでは26倍も違う。1,000レース増えたとき、複勝は36分の1になるが、単勝は2.3分の1にしかならない。人数で言えば、世界の80億人でやったときの上限が、複勝5,527レースに対して単勝23,485レース。4倍以上しぶとい。
夢があるのは単勝のほうだ。ただし平均は72.85%である。
夢を買うとは、平均を下げて上振れを買うことである。ばらつきが大きいぶん遠くまで届く。だが届く先は、100%の手前のままだ。
俺の立場
ここまでの数字は、俺が何をしているかの説明でもある。
無作為に買えば74.44%。これが出発点であって、下限ではない。仕事は、この74.44%をどれだけ持ち上げられるかに尽きる。区分で切るのも、上乗せの確認できた指標だけを使うのも、全国をまとめた平均を見ないのも、全部そのためにやっている。
そして、運では埋まらないことがこれで分かった。10,000人が95,740レースずつ買って、100%を超えた者は0人である。足りないぶんを運で埋めようとするのは、32シグマの向こう側に賭けることだ。
買う回数を減らせば、4人に1人までは行ける。だがそれは勝ち方ではない。回数を減らして上振れを待つのは、勝つことではなく、負ける回数を減らしているだけである。
一戦の結果で条件を足したり引いたりしない、と俺は決めている。理由はここにある。10レースの結果は、半分以上の人が平均より下に出る。10レースは、何も教えてくれない。
動画版
同じ内容を、霊夢と魔理沙が12分49秒かけて話している。表で見るより、声で聞いたほうが残る。
YouTube で再生霊夢、狂運はどこまで届く【134万頭で確かめたケントク買いの限界】(12分49秒)
付記 動画に出てくる賽について
動画には8から18までの目が出る賽が登場するが、そんな賽は手に入らない。8から18は11通り。正多面体は4・6・8・12・20面の5種類しかなく、11面の正多面体は存在しない。動画の賽は「どの目も同じ確率で出る」という前提の、計算上の道具である。この記事の数字もすべて等確率の乱数で出している。





